人生の価値
今回号の『PRESIDENT』は、「人生の価値
~あなたは、これからどう生きるか?~」が
テーマでした。
お金や仕事、時間など10の項目について
心理学者や哲学者、仏教僧が新たな価値観を
教示されたり、30代から70代までの各年
代別に抱える「将来不安」を解消する対処法
が紹介されていました。
なかでも、一橋ビジネススクール特任教授
楠木建先生の「『良い人生』が実現する3つ
の条件」は、得心させられるところが多く、
充実した内容でした。
第1の条件は、「決して、他人の幸福をう
らやんではいけない」です。
偉人たちの名言を引用しながら、その理由
についてわかりやすく説明されています。
「他人よりも幸せになりたいというのであ
れば、それは困難だ。われわれは、他人を実
際以上に幸福だと思っているからだ」(モン
テスキュー)
「他人の幸福をうらやんではいけない。な
ぜなら彼の密かな悲しみを知らないのだから」
(ダンデミス)
「幸福になるのは、自分の好きなものを持
っているかであり、他人が良いと思っている
ものを持っているかではない」(ラ・ロシュ
フコー)
自分の人生を価値あるものにするためには
他人の評価ではなく自分の軸、価値基準を明
確にすることが大事であると説かれています。
第2の条件は、「決して、うまくやろうと
気負ってはいけない」です。
近年、声高に叫ばれる「GRIT」や「レジリ
エンス」といった成功の呪縛にとらわれるこ
となく、著書『絶対悲観主義』でも貫かれて
いる「思い通りにうまくいく仕事なんて世の
中にはひとつもない」ぐらの気持ちで常に構
えておくことを奨められています。
「人生や仕事は、なるようにしかならない
が、なるようにはなる」という独特で深い考
え方です。
第3の条件は、「決して、崖っぷちでもズ
ルをしてはいけない」です。
失敗学の権威である畑村洋太郎氏の著され
た『回復力 失敗からの復活』から大事な考
えを紹介されています。「人間は失敗直後に
正しい対応を取ることはできない。エネルギ
ーが戻ってくると自然と困難に立ち向かえる
ように人間はできている。エネルギーが抜け
ている状態のときにじたばたするのが一番よ
くない」そして、「一時的な退避はよいが、
ズルやウソをつくのは絶対にいけない」と諭
されています。
「成功したから幸福なのか」「幸福だから
成功するのか」の論争もある通りで、第2の
条件については職業や役割によって異論も出
てくると思われますが、楠木建先生の推奨さ
れる「『良い人生』が実現する3つの条件」
は総じて納得のいくものであり、肝に銘じて
おくべき教えだと思いました。